隣のうちの自慢の旧車
隣のうちの自慢の旧車
編集部より:近藤那央さんのコラム第三弾。意外とモノを大事にするオールドアメリカン、文字通り「足」である車への思い入れは尚のことで、自分で直すどころかカスタムまでして乗り続ける剛の者も。そんなクラシックとイノベーション、相反する二つが両立するシリコンバレーのリアルをお届けします。
私の住んでいるアメリカ・カルフォルニアの、いわゆるシリコンバレーと呼ばれるエリアには、びっくりする位テスラが当たり前に走っているが、旧車も結構多い。おそらく、カルフォルニアのカラッとした気候が鉄の塊の保存に向いていることもあるんだろうし、多くのクラシックカーが今も走っていて、日曜日などにはかっこいい古いオープンカーで風を切るおじさんたちをよく見る。
かくいう私も旧車好きだ。車が好きな父の影響で、幼い頃からフランス・シトロエン社の2cvという車を直して乗っていた。2cvに乗るためにマニュアル免許を取得し、学生時代、文字通り乗り回していた。
こういった流れで、もともとヨーロッパの旧車が好きだったのだが、アメリカにきてからドンとした、余裕や風格を感じさせるアメリカ車の魅力に気づき、いま乗っている車は新車ながら旧車然としたDodge社のChallengerというマッスルカーだ。
隣の家に住んでいるおじさんも、そんなアメリカ旧車を愛するアメリカンの一人だ。シリコンバレーという土地柄、この土地には長く住んでいる人は他の都市に比べて少ない。しかし、隣のうちの彼は40年以上同じ家に住み続けているらしく、子供と彼の親の三世代で住んでいるようだ。家の前にはバスケットゴールがあったり、アメリカンフラッグがはためいていたりと移民が多いシリコンバレーではむしろ珍しいほどのアメリカンである。
そして、なんと、彼の持っている車はあの、T型フォードだったのだ。
T型フォードというと、フォード社が1908年に世界で初めて大量生産を行った自動車で、爆発的にヒットした車である。まさに初期の自動車史を作った車であり、多くの博物館に展示されている。私も、一度トヨタの博物館で展示された実物を見たことがある。
しかし、こんなところにT型フォードがあるとは。
晴れた日の日曜日、彼はガレージからT型フォードを出して整備しているようだったので、慌てて私は彼に話しかけにいった。車の周りは実家の旧車で嗅いだことのあるような、古いオイルの匂いがしていた。どうやらオイル交換をしているようだ。
そう、このT型フォードは実際に走るのだ!しっかりカルフォルニアのナンバープレートもついている。
「すごい!初めて見ました!走るT型フォードは」と言うと、彼は自慢げに
「もちろん走るさ!これは104年前の車なんだよ」と教えてくれた。
104年前ということは、1914年製造の車だ。1914年というと、第一次世界大戦が始まった年である。この車は104年間、複数の人に乗り継がれ、大きく変わったアメリカの歴史を見てきたのだろう。
初めてしっかりみるT型の運転系統やエンジン周りなどを説明してもらいながら、自分も将来時間とお金に余裕ができたらかっこいい旧車を乗り続けているおばあちゃんになりたいなと思った。
ちなみに、今度乗せてあげるよ!と言われて随分経ったけれど、こちらからそろそろ連絡してみても良い頃だろうか。