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「YUMMY SAKE」ロジックにできない“感性”をAIでプロダクトに③

10種類の日本酒をブラインドテイスティングし、それぞれの味わいを直感的な5段階評価するだけで、自分の味覚タイプを判定できるオンラインサービス「YUMMY SAKE」。日本酒の知識がなくても、誰でも簡単に自分に合った日本酒を見つけ、好みに合ったものを購入することができます。

そんな「YUMMY SAKE」は、どのような発想から生まれたのでしょうか。プロジェクトを発足した博報堂アイ・スタジオの中島琢郞さんに、開発経緯や苦労したエピソードなどを伺いました。これまでの記事では、日本酒のブラインドテイスティングに目を付けたきっかけや、データ収集とAIの活用方法について紹介しました。最後となる第3回は、日本酒の分類にオノマトペを採用した理由、今後の展望などを教えていただきました。

博報堂アイ・スタジオ
YummySake推進室 室長
CXディレクター
中島琢郞さん

AIを活用した新規事業の開発を社内で担当し、「YUMMY SAKE」を展開するPROJECT YUMMYを立ち上げた敏腕クリエイター。クリエイターの視点から独創的なAI活用術を見出す。もちろん大の酒好き。

■日本酒の味をオノマトペで直感的に伝える

—「YUMMY SAKE」は味覚タイプをオノマトペ(擬声語)で表現しているところが面白いですよね。「スルスル」や「ホワホワ」など、なんとなく味の傾向がわかります。

オノマトペにした理由は、あれを使わないと「純米無濾過生原酒」とか、どうしても専門用語で表現することになってしまうからです。シャラシャラとかキュンキュンはもっとひどくて、「吟醸系カプロン酸エチル成分含む」とかやばい感じの名前になってしまいます(笑)

僕たちが本来やりたいことが、「難しいことを簡単にしてあげる」「直感的に選べるようにしてあげる」こと。日本酒を分類するだけであれば、お酒に詳しい未来日本酒店さんだけで辿り着けることなんですよね。12分類のロジックは基本的に考えていただいたんですよ。利き酒師がやっている分類方法に、店頭やイベントで培ったユーザーにとって意味のある味覚の分類ということで、この12分類だったらOKというところまで作っていただいて。それをどうやって表現するか、直感で伝えるにはどうすればいいかをチームで考えていたときに、オノマトペが分かりやすいんじゃないか、むしろこれ以外にはないだろういうことで決まりました。

いろいろなジャンルの日本酒を飲んで、「これはスルスルというかシュルシュルかなぁ」とか、よくわからないことを言いながら結構アナログにやって、まずカタチにしてみた感じです。とにかく直感的にするためにオノマトペを採用していますね。

—オノマトペを採用したことに自信はあったと?

日本はオノマトペがすごく発展しているんですよね。感情表現として日常的に使っていて、プンプンは怒っている、フワフワは柔らかいと認識できます。最初は直感ならこれかなっていう思いつきでやったんですけど、それが結構ウケて。お酒とちょっとアホらしいものって相性がいいと思うんですよね。「私ホワホワだって~」みたいな。いい年したおじさんが「キュンキュンです」と恥ずかしそうに申告したりとか(笑)。そういうアホっぽさって、お酒とセットだと許されるところがあると思うんですね、無礼講のような。そういったツールとしてもオノマトペはとてもいいなと思ってます。

でも「YUMMY SAKE」は外国の方も使ってくれているのですが、ちょっと伝わりにくい面もあって、例えばドイツ語にはオノマトペの種類が少なかったり、文化として薄い国も多いんです。スルスルって言う言葉にしても、僕らが感じるなめらかさとかは彼らには伝わらない。でも音としては、なんか面白いぞみたいな感じで受け取ってもらえていて、だから海外用にはスルスルにはスティッキースパークリングといった英語を一言つけてやっていきたいと思っています。オノマトペも日本文化の一つとして面白がってもらえたらうれしいですね。

■「YUMMY SAKE」はアプリではなくウェブサイトを使用

—ブラインドで日本酒を飲んで、好きか嫌いかの評価をつけるのはアプリを使ってですか?

アプリではなくサイトなんですけど、プログレッシブウェブアプリ(PWA)というGoogleが発表したWEBアプリを使っていて、一言で言うとかなりアプリっぽい使い方ができるウエブサイトです。動作が早かったり、アプリっぽくUIを作りこめたり、ホーム画面に登録すると瞬時にアクセスできたり。ユーザー視点に立ったとき、アプリのダウンロードって面倒くさいだろうなぁと思って、もっと気軽にできるようにウェブサイトにしました。

—ブラインドテイスティングは未来日本酒店さんとかに行かないとできないのでしょうか?

そうですね、物理的にお酒が必要ですので。未来日本酒店の代官山店※と吉祥寺店の2店舗だけでテイスティングキットを展開しています。いろいろなところからお話はいただいていて、導入に向けて動いているところではあります。
※12/3リニューアルのため一時閉店し、2019年1/16にオープン予定

—テイスティングキットで使われているのは市販のお酒ですか?

はい、市販の日本酒です。いろいろなお酒が使われていて、それに対して様々な評価のデータをとっていて、テイスティングのお酒の内容を月に1回のペースでガラッと変えています。毎月200〜300名くらいの方にテイスティングをしていただいていて、だいたいそのくらいデータが集まったら次に行ってもいいかなって感じで。

—お酒を変えても結果が出せるものなのでしょうか?

現在採用している仕組みですと、それぞれのお酒にオノマトペの情報を振ってあるので、一定の組み合わせを満たせば大丈夫なようにはしてあります。今はパラメーターが少ないので、バージョン2に向けてお酒の情報のパラメーターを増やそうとしているところです。プロテイスターのチームを作ったので、それが反映されるとより精度は高くなります。現状12タイプに分類しているんですけど、今後はドンピシャの1本もレコメンドできるようになります。

■日本酒を通して人と人をつなぐ場を作る

—今後の展開はテイスティングキットの販売などでしょうか

そうですね、テイスティングキットは全国展開も可能ですね。あとは味覚タイプ判定してもらった人は会員になっていただいて、会員向けのサービスを展開しようと思っています。吉祥寺エリアでテストを始めているのですが、一つは日本酒の品揃えに自信のある飲食店さんとかに提携してもらって、「YUUMY SAKE居酒屋」みたいなところを作っていって、「私パタパタです」って言ったら出してもらうようにしたり。

もう一つは日本酒で人と人をつなげるイベントを開催するとか。同じ味覚タイプの人は声をかけやすかったり、仲良くなりやすいんですよ。だからオノマトペを活かして、「ホワホワの人、ここで飲んでくださーい!」って仲良くなるきっかけを提供したりといったことを考えています。日本酒の新しい遊び方のような、そういう場所を各地で展開できたらなぁと思います。

—日本酒好きだけに限らず、多くの人に向けた展開を考えているんですね。

一部のマニアだけではなくマスを狙いたいですね。日本酒にあまり興味はないけど、「おいしい地酒もあるらしいよ」みたいな人たちがマスなので、その人たちにとりあえずこれ(YUMMY SAKE)をやったら楽しいよ、何も勉強しなくていいよっていう場所をまず作る。その先に日本酒と料理のペアリングの深さだったり、熱燗にするとこんなに変わるんだとか、蔵元ってこんなストーリーがあるんだみたいな、人によっていろんな科目を選択していけると思うんです。だから、まずはみんなの入り口となる“場”を作っていきたいですね。

もちろん全部を自前でやろうとは僕らは思っていなくて、外部のいろいろな業界と積極的に連携していきたい。僕らはブラインドテイスティングという比較的バイアスのかかっていないデータを独自に持っているので、「お互いの武器をくっつけて一緒に新しいものを作りませんか?」みたいな感じで、ビジネスとして広げていきたいなと思っています。

日本酒のブラインドテイスティングという、中島さん個人の体験から生まれた「YUMMY SAKE」。テイスティング評価を簡素化し、味覚タイプにオノマトペを採用するなど、誰でも直感的に使える工夫が見られます。これらはAIありきではなく、体験をキーワードとして捉え、使う人ありきで開発されたことが、中島さんの今後の展望からもうかがえます。「YUMMY SAKE」は日本酒とAIを組み合わせたプロダクトですが、本質は人と人とをつなぐために生まれたもの、と言えるかもしれません。

構成:津田昌宏
撮影:宮前一喜

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